「蝶々と戦車」ヘミングウェイ 短編

あらすじ

スペイン内乱の最中、検閲局からホテルへ、雨の降る帰路を歩んでいた私は、雨に嫌気がさしていた。そうしたところ、酒場の看板が目に留まった。酒場で一休みしてからホテルに帰ろう、そう思った私は、酒場に入った。
しばらくすると、奇妙な客がやってきた。水鉄砲を持った客であった。この客は底抜けに無邪気だがちょっと頭が残念な人だったらしく、ウェイターめがけて、携帯していた水鉄砲を突然放射した。ウェイターは抗議したが、男は構わず水鉄砲を乱射し続ける。すると、そこにいた三人の義侠心に溢れる男たちが、水鉄砲の男を店の外へつまみ出した。しかし男は懲りておらず、直後、再び店の中に入ってきて、今度は自分を追い出した三人めがけて水鉄砲を放射した。切迫感が立ち込め、乱闘が起こった。銃声が鳴り響き、私はカウンターの陰に身を伏せた。銃撃戦が起こると判断したからだ。ところが、銃声はすぐ止んだ。様子を見ると、水鉄砲の男は銃で撃たれて死んでいた。彼は一人で、仲間を引き連れてもいなかったようだ。
珍妙な経緯だが、殺人事件が起こったことに変わりない。警察が捜査にやってきて、私は足止めを食らった。私は酒場なんか寄るんじゃなかったと後悔した。翌日、私は再び酒場を訪れて、ウェイターと話をした。すると、昨日の事件の輪郭が段々と明確になってきた。
男は水鉄砲に香水を詰めて、それを発射していた。皆を愉しませようとしていたらしい。愉しませるというが、いきなり水鉄砲なんか放射されたら、無礼な行為だと憤慨する奴の方が多いに決まっている。今スペインは内乱の最中で、人々は精神的にもストレスフルになっている。そんな状況下で水鉄砲を人めがけてぶっかけたらなおさらだ。男はあまりに無邪気すぎた。
それにしても珍妙な事件だったので、私はこの事件を題材に短編小説の一本でも書こうかと思った。それを話すとウェイターは「是非とも書いてください」と要請してきた。ウェイターは雄弁に語り始めた。あの水鉄砲の男は、この内乱で張りつめたスペインにおいて無邪気すぎて、まるで蝶々のようだ。その蝶々のような無邪気さが、戦争の深刻さとぶつかり悲劇が起こった。作品のタイトルは、「蝶々と戦車」にした方が良い、と。
私はウェイターの雄弁に辟易しながら、まあ悪くないタイトルだなと思った。ウェイターは、水鉄砲の男に嫁さんがいて、息絶えた彼の死体に泣きついて縋りつき、「誰がこんなことをしたの」と、返事を返さない骸相手に嫁さんが虚しく何度も尋ねていたことも話してくれた。私は水鉄砲の男の未亡人に僅かに思いを馳せながら、酒場で一時の休みに興じていた。

ヘミングウェイすげー

蝶々と戦車というタイトルから考えれば、フリットガンマンは戦車に潰されてペチャンコになった蝶々である。
この光景を文章にしたのがこの短編だと思う。
蝶々の滑稽さと儚い無邪気さ、それに対し戦車は人間が自分の真っ当さを言い分に命を奪う様を表している。
この短編はまさに戦争の不条理さを表現しているのではないだろうか。
彼のユーモアと演劇的要素が含まれた文章はシンプルで読みやすく軽やかに展開されていくが、時にシニカルで冷徹な視点をしっかりと描いている。
人間を見つめる彼の視点が時に恐ろしく感じるが、文章構成のセンスはそれを素晴らしい文学作品にしている。